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最高裁判所第一小法廷 昭和33年(オ)852号 判決 1959年2月19日

主文

原判決を破棄し、第一審判決を取消す。

被上告人が昭和三一年二月二三日の会議においてした上告人を丸瀬布町議会議員から除名する旨の議決はこれを取消す。

訴訟費用は全審級を通じ被上告人の負担とする。

理由

上告代理人弁護士山根喬の上告理由第三点について

原判決の引用した第一審判決によれば、原判決は次の事実を確定しているのである。すなわち昭和三〇年五月一日以来丸瀬布町議会議員である上告人は、丸瀬布町との間に締結した判示立木の売買契約に関連し、契約範囲外の立木を伐採したとの問題について被上告人議会の特別調査委員会の議に附せられ、判示のいきさつの後に、昭和三一年二月九日右契約の解除を承諾し、爾後造材事業を中止し既に搬出した木材の所有権は全部町に移転する旨の承諾書を町長に差入れたこと、次いで、右問題整理の為めに組織された整理特別委員会は上告人が右伐採事業に使用した造材人夫の賃金数十万円の早急支払方に関し調査を進めた結果、判示の如き曲折を経て、右賃金の内、六万円を町において上告人の為め負担支出し、以て上告人がその責任において賃金の支払を早急になし得るようの解決案が上告人承諾の下に作成されたこと、しかるに上告人は右解決案の報告審議の為めに開かれた右同月二三日の臨時議会に突如、議長宛、右解決案の責任は負えない。賃金は町が支払うべきものである旨の文書を提出し、更にその直後、議員資格に基く一身上の弁明にあたつては反省の色なく、町長がさきに同月一一日の議会で町が賃金支払の責任をもつ旨述べた事実を根拠として右文書と同趣旨の発言をし、更にそもそも契約範囲外の立木を伐採した覚えはないなどの発言をしたものであること、かくして右同日の被上告人の臨時議会は上告人の議会における右発言中に議会を冒涜し議会の体面を汚すものがあり、かつ、その情状特に重いとの理由で上告人を被上告人議会議員より除名する旨の決議をした、というのである。思うに被上告人議会が本件問題の調査収拾の為め調査特別委員会、整理特別委員会及び本会議を数回に亘り開催し、事件の円満解決と賃金の早急支払のための解決に腐心努力したことは叙上認定事実に徴しこれを看取するに難くなく、これに対し上告人は整理委員会が努力の結果到達し得た前記解決案を一度は承諾したにかかわらず、右臨時議会において右承諾をたやすく翻えし、あまつさえ前示立木の契約範囲外伐採の事実まで否定したということは本件問題を振出しに逆行させたもので、議員として議会に対する協力の態度を欠き、不徳の誹を免れないけれども、前示認定の如き発言の程度を以てしては被上告人議会会議規則一四六条にいわゆる議会を冒涜し、その体面を汚すものであり、しかもその情状特に重いものとは到底認められないし、また、地方自治法一二九条にいう議会の会議中議場の秩序を乱すもの、同法一三一条にいう会議を妨害するもの、同法一三二条にいう議会において無礼の言葉を使用し、また他人の私生活に亘る言論をするもの、同法一三三条にいう議員を侮辱するもの等、以上いずれの条項にも該当するものと認めるを得ない。

さすれば、論旨は結局理由あるに帰し原判決は爾余の論点に対する審究をまつまでもなく、破棄を免れないものと認める。そして当裁判所は原判決の確定した叙上事実に基き本件除名議決はこれを取消すを相当と考えるのである。

よつて、民訴四〇八条、三九六条、三八六条、九六条、八九条に従い裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 高木常七)

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